第82章 真に恐れるところ

彼が真に危惧していたのは、別の事案だった。

かつて父の後妻に入った、若くして世を去ったあの女――橘凛の母親のことだ。彼女は嫁ぐ際、自ら立ち上げ、すでに相当な規模にまで成長させていた会社を持参金代わりに合併させていた。

今日の橘グループが誇る威容と盤石な基盤は、少なくともその半分が、凛の母がもたらした資本の上に成り立っていると言っても過言ではない。

法的に、そして道義的にも、彼女の唯一の血縁である橘凛には、母の遺産を取り戻す正当な権利がある。

それこそが、橘健吾が抱く最大の懸念材料だった。

だが、父が凛をこれほどまでに軽んじ、あまつさえ靴底の泥のように疎んじているのを目の当たりにし、...

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